古典の時間 2

先週も引き続き古典を学びました。新海誠監督の映画「君の名は」は夢の中で男女が入れ替わりますが、それは古典の「とりかえばや物語」や小野小町の和歌「夢と知りせば覚めざらましを」を引用していたようで、「君の名は」における古典文学の引用を考えました。

 

古典での夢の意味

多くの古典で出てくる夢は、夢に出てきた相手が自分のことを好きであるという恋の暗示を持つものとして話の中に登場していたようです。しかし小野小町の「夢と知りせば」は自分が好きな相手を想って寝たから夢に出てきてくれたのだという全く逆の考え方をしていたものだそうです。また、古典では不思議な出会いは夢をキーワードに描かれることがあったということで、伊勢物語の中でも夢の中で出会ったような話があるとのことでした。

 

古典の男女入れ替え物語

男女入れ替え物語は、女装したり、男装したり、中身が入れ替わったりと様々なものがありますが、その最古の物語は兄妹が入れ替わる「とりかえばや物語」だそうです。男装、女装した状態で兄妹がそれぞれ異性に恋をするストーリーだそうで、最後は男装、女装をといて普通の姿で結ばれるそうです。

 

数ある男女入れ替え物語の中で「君の名は」が工夫した点

私が見たことのあった男女入れ替え物語(主に男装)は、(ドラマ)イケメンパラダイス、コーヒープリンス1号店、雲が描いた月明かり、(漫画)木曜日は君と泣きたい などです。韓国ドラマは男装ものが多いと思います。面白いですよね。これらと「君の名は」の相違点を考えていきたいと思います。

「君の名は」は

・目が覚めたら相手のことを忘れてしまう

・入れ替わりたくて入れ替わったわけじゃない

・元の性に(ほかの作品と比べると)不満はない

・入れ替わった時に元の性の良さを発揮している

といったところでしょうか。男女入れ替えものではなんらかの入れ替わらなくてはならない本人の個人的事情から入れ替わることが多いと思います。しかし「君の名は」は意味ある入れ替わりではあるものの、本人の意図なしに(想いはあったのか?)入れ替わっています。そしてずっと元の性に不満があるわけでもありません(三葉はあったかもしれない)。また入れ替わった時に元の性の良さを発揮しているというところもなかなかほかの物語にはない点かなと思いました。(どの作品かはヒーローだけがヒロインの隠していても時々見える女らしさに気づく的な設定はあった気はします。)他の入れ替え物語同様周囲にばれないように男っぽい、女っぽいしぐさをまねるというところはありますが、2人とも入れ替わった時に隠さず女・男らしさ、その本人の良さを発揮していました(気づいていないかったり、気にしていなかったりするからだとは思いますが)。見た目は瀧君(中身は三葉)のときは、破れた小野寺先輩のスカートを縫ったり、三葉の一生懸命で可愛らしいところが小野寺先輩に気に入られデートにこぎつけたりしていました。見た目は三葉のときは、バスケでガンガン格好よくシュートを決めたり、いやなことをいう相手にきちんと(荒っぽいですが)自分の意見を言ったりしていました。こういった点が昔からある男女入れ替え物語を引用しながらも「君の名は」が新しく工夫した点かなと思いました。スッキリとした感じがあり面白いなと思いました。

 

物語を引用することで表現したいものとは何か

私が物語の引用というところで思いついたのはムーランルージュというミュージカル映画図書館戦争という本です。ムーランルージュは物語の引用というよりは歌詞の引用になるのですが、この映画の中では様々な有名曲を引用しながら物語が進んでいきます。引用することでなじみやすさがあり歌詞が入ってきやすく、ストーリーや物語のテーマが分かりやすくなるのかなと思いました。また、ミュージカル映画では1つの作品の中でその作品の引用曲が出てくることが多々あります。1つの曲やメロディが場面、人、歌詞や調、リズムを変えて何回も登場するということです。そうすることで同じ歌でも前とは違う意味を帯び、場面や感情の対比が分かりやすくなり、言葉で説明しなくとも伝わるのです。そしてもう1つ、図書館戦争は「図書館の自由に関する宣言」という実際にある宣言文から(だけで)ストーリーがふくらませられている作品です。本を守るために図書隊という架空の組織が戦争するわ、甘々なラブストーリーも挟むわでかなり忙しい(?)作品ではあるのですが、表現の自由を守るという図書館戦争における大きなテーマがぶれずに軸にあり続けることができている理由の一つには、実際にある宣言を引用していることが挙げられるのかなと思います。

このように物語を引用することで、テーマや軸がはっきりと分かりやすくなったり馴染みやすくなったりすると思います。また、引用元との比較ににより物語の独自性が際立ったり、伝えたいことや登場人物の感情がより分かりやすくなるのではないかと思いました。